カント『法論』#1(目次)

凡例

 以下は、イマヌエル・カント『道徳の形而上学 第一部 法論の形而上学的基礎』(Immanuel Kant, Metaphysische Anfangsgründe der Rechtslehre. Metaphysik der Sitten 1. Teil, 1797)の不完全な翻訳です。翻訳はアカデミー版カント全集(Kants Gesammelte Schriften, hg. von Königlich Preußische Akademie der Wissenschaften, Berlin, de Gruyter, 1900ff)第6巻により、文中の【 】内に頁数を記しました(web版はこちら)。

 〔 〕は訳者の補足で、原文の( )はそのまま表記しています。ただし、hatena blogでの記載が煩雑になるため、原文の強調は全て省略しています。

 『道徳の形而上学』(1797)は、カントが『道徳の形而上学の基礎づけ』(1785, Grundlegung zur Metaphysik der Sitten)、『実践理性批判』(1788)を通じて確立してきた道徳原理にもとづいて、法(Recht)と徳(Tugend)の2つの部門を論じた著作です*1。『道徳の形而上学』は「第一部 法論の形而上学的基礎」と「第二部 徳論の形而上学的基礎」に分かれており、前者が先に出版され、遅れて一年後に後者が出版されました。このブログでは「法論」のみを、しかも部分的に訳出します。

 タイトルは旧来『人倫の形而上学』とも訳されてきましたが、このブログでは『道徳の形而上学』と約しています。Sitteの訳が問題なのですが、「人倫」はやや古めかしい響きを持つと考えました。Sitteはドイツ語でもともと共同体の慣習を意味する語です。後にヘーゲルは『法の哲学』のなかでSitteとMoralを区別しましたが、(私見または通説によれば)カントはこうした区別を立てていません。そのため、Sitteをわざわざ「人倫」と訳すよりも「道徳」と訳したほうがいいのではないかと思ったのです。ただしSittenlehreは道徳学とするよりも、倫理学としたほうが現在の日本語上、自然であるため、そのように訳しました。

 また、ドイツ語Rechtにはラテン語jus、フランス語droitと同様に、「法」と「権利」どちらの意味もあります。ここで法というのはおおよそ人間の行為規範の総体という意味であり、自然法(Naturrecht)、民法(Zivilrecht)、公法(öffentliches Recht)、教会法(kanonisches Recht)などという風に用いられます。それに対して、こうした法に内包される法則・法律・掟はドイツ語ではGesetz、ラテン語ではlex、フランス語ではloiにあたります。さらにRechtは、形容詞の形(recht)で「正しい」という意味があります。カントは本書でRechtに含まれたこうした意味の重層性を捉えて議論を進めており、翻訳では文脈に応じて、「権利」「法」「正しさ」と訳し分けています。

 

目次

序文

道徳の形而上学への序論(#1, #2, #3

法論の形而上学への序論
 §A–§E
 法論への序論の補足:両義的な権利(Ius aequivocum)
 法論の区分

道徳の形而上学一般の区別
 

第1部 私法:外的な私のもの・あなたのもの一般について

第1編 外的なものを自分のものとしてもつ仕方について
§1-3§4–5§6§7§8–9

第2編 外的なものを取得する仕方について*
 第1章 物権について
 第2章 債権について
 第3章 物件の仕方での人格権について〔家族権について〕
 補章 選択意志の外的対象の観念的取得

第3編 公的法廷の判決を通じた主観的に制約された取得について*

 

第2部 公法
 第1章 国法
 第2章 国際法
 第3章 世界市民法 

付録 法論の形而上学的基礎への解説的注釈*

 (*は訳すつもりのないところ)

*1:ただし、『基礎づけ』・『実践理性批判』と『道徳の形而上学』がどのような関係にあるのか、前者と後者は連続しているのか独立しているのか、という点については論争があります。